先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業 Science and Technology Platform Program for Advanced Biological Medicine

採択課題

生細胞内セントラルドグマ分子の光操作

<研究開発代表者> 湯浅 英哉

東京工業大学 生命理工学院

湯浅 英哉

 癌治療法の一つの体系として、セントラルドグマ過程の一部を改変することで標的タンパク質の機能を抑制する方法が進展しつつあります。その代表例として、DNAを標的とするゲノム編集、RNAを標的とするRNAiノックダウン、タンパク質を標的とする癌ミサイル療法が挙げられます。しかし、これらのセントラルドグマ分子改変法の治療応用においては、安全・倫理性、標的細胞・組織への選択的デリバリー、コストなどが課題となっています。これらの課題を一気に解決するには、セントラルドグマ分子改変のON/OFFを時空間的・可逆的に遠隔操作できる方法論の確立が必要です。

 この遠隔操作を可能にするメディアとして、超音波・磁場・光を含む電磁波・放射線の利用が考えられますが、分子中の共有結合を変化させるのに十分なエネルギーを持ち、かつ安全性を兼ね備えたメディアとしては、光が最も有効と考えられます。光シグナルを共有結合変化へと誘導する方法論の中でも光触媒分子の利用は、多分子の化学変換ができる点において酵素と同様の生体分子変換制御が期待できます。オリゴヌクレオチド相補鎖やタンパク質リガンドに光触媒基を結合させた分子は、標的セントラルドグマ分子へ可逆的に結合し、光照射により触媒的にこれら生体分子の構造を部位選択的に変化させることが可能と考えられ、セントラルドグマ分子の時空間的・可逆的な光遠隔操作ができるようになることが期待されます。

 このような光触媒基として私達が注目したのが、独自に開発したビフェニル型光増感剤(BP)です(図1)。BPは、汎用増感剤のポルフィリンと同様に光照射により空気中の酸素(3O2)を反応性が高い一重項酸素(1O2)に変換し、生体分子の酸化反応を促進します。ポルフィリンと比較してBPの分子サイズは半分以下であり、分子モデルからDNA二重鎖の主溝(図2)やチャネルタンパク質の孔に容易に入り込むことができることがわかります。BPは非水環境下では、ポルフィリンと同等以上の増感能を示し、核酸塩基の1つであるグアニン(G)をオキソグアニン(oG)に酸化することができますし、トリプトファンなどのアミノ酸を酸化分解することができます。興味深い点は、Gはシトシン(C)と安定な塩基対を形成しますが、oGはアデニン(A)との塩基対形成がより安定となります。したがって、BPの増感作用によりDNA中のGを部位選択的にoGに酸化できれば、転写においてC→A点変異が可能となります。RNA中のoGは翻訳においてタンパク質合成のストールを起こすことが知られています。また、標的タンパク質に結合するリガンド分子に光増感剤を結合させた光触媒分子は、細胞内で標的タンパク質に特異的に結合することで、光増感剤から産生する1O2を利用して酸化的に不活性化させることが確認されています。

 本プロジェクトは、BPをオリゴヌクレオチドやタンパク質リガンドに共有結合を介して接続し、BPの光触媒作用で、DNA、RNA、タンパク質を部分改変することで、疾病の原因となる標的タンパク質の機能を、時空間・可逆的に変化・抑制し、安全な疾病治療を行う方法論を構築することを目的とします。このうちタンパク質の部分改変は、研究分担開発者の中村浩之教授(東工大科学技術創成研究院)が担当します(図3)。その他、金森功史助教、Selvakumaran Paulsi研究補佐員、西田幸子研究補佐員(全て東工大)が研究プロジェクトを担当いたします(図4)。

図1 図1: 本プロジェクトの全体像。セントラルドグマ生体分子の光編集・ダメージ:DNAの光編集によるRNAの点変異、RNAの光編集による翻訳阻害、およびタンパク質の酸化的不活性化。この技術をヒトに応用するために必要な光遺伝子・タンパク質操作技術と光源技術の構築と企業導出。
図2 図2: DNAとBPオリゴヌクレオチドの三重鎖、RNAとBPオリゴヌクレオチドの二重鎖
図3 図3: BPタンパク質リガンドによる細胞内タンパク質の酸化的不活性化のメカニズム。光スイッチングによって翻訳後に細胞内の標的タンパク質を、光増感剤から産生する1O2を利用して酸化的に不活性化させることができる。この手法を用いれば、疾患の原因タンパク質の時空間的なダイナミクスを観察することが可能になる。
図4 図4. プロジェクトメンバーの集合写真

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