核酸医薬品はアンチセンス核酸をはじめ、siRNA、アプタマーやデコイ核酸など、その開発や臨床試験が世界各地で進んでいますが、そのほとんどが一本鎖RNAを標的としています。多様な機能を有するRNAは遺伝子発現制御には画期的な標的であるが、近年RNA調節機構の複雑さが明らかになるにつれて、今後はRNA制御の根幹となる2本鎖DNAを標的とした創薬開発の重要性が再認識されると考えられる。2本鎖DNAに対してもう一本のオリゴヌクレオチドを作用させて形成させる3本鎖DNA形成アプローチは、病気に関与している異常遺伝子に直接作用し転写の段階を制御できる手法であります。本手法はアンチジーン法と呼ばれていますが、その形成配列に根本的な制限があるためほとんど検討されていないのが現状であります。その問題点の一つに3本鎖DNA形成障害部位の存在があげられます。2本鎖DNAのGC塩基対のプリン塩基であるGにもう一本の鎖のGが、AT塩基対のAにAが相互作用して3本鎖DNAを形成します。そのため、天然型のアンチジーン核酸は2本鎖DNA中の塩基対が入れ替わったCG塩基対やTA塩基対のピリミジン塩基を認識することができず、安定な3本鎖DNAを形成することができません。一方で、安定かつ高選択的な3本鎖DNA形成を目指して標的配列を決定した場合、オフターゲット効果の抑制には標的配列にCGやTA塩基対の様な3本鎖DNA形成障害部位を少なくとも1カ所組み込む必要があるため、天然型の核酸のみで構成されるアンチジーン核酸では展開できません。我々はこれまでに、天然の核酸では認識することができないCG塩基対やTA塩基対を選択的に認識すること目指した人工核酸の創成を行っています。最近、非常に安定な非天然型3本鎖DNA形成可能な世界初となる人工核酸の開発を達成し、特定の遺伝子発現の制御にも成功しています。
本研究課題では、人工核酸搭載アンチジーン核酸を核酸医薬の一つとして位置付けるために、研究実施機関である九州大学薬学研究院で開発した独自の人工核酸を基盤技術として用いて研究を実施します。そして、人工核酸搭載あるいは化学修飾を施したアンチジーン核酸を創製し、細胞内導入技術の開発、人工核酸効率的合成法の確立、さらには標的配列の網羅的探索、そして発現mRNAの網羅的解析を行います。これらの事を明らかにすることにより、本開発技術を新たな創薬モダリティーの基盤技術として展開します。

天然型核酸による3重塩基対構造と天然型核酸では安定化する事ができない部分に対して人工核酸による非天然型3重塩基構造

本プロジェクトでは、人工核酸搭載アンチジーン核酸を細胞に導入してhTERT遺伝子(一例)を標的とし人工的にmRNA転写阻害する。さらに様々な遺伝子を標的として転写阻害活性を明らかにする。
