先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業 Science and Technology Platform Program for Advanced Biological Medicine

採択課題

二重特異性を有する完全ヒト抗体の迅速取得とそのシームレスな最適化

<研究開発代表者> 瀬尾 秀宗

東京大学大学院総合文化研究科

瀬尾 秀宗

 我々がウイルスや細菌などの病原体に感染した際、体内ではそれぞれの病原体に合わせて「抗体」というタンパク質が作られます。 この抗体タンパク質は病原体に結合することで病原体を不活性化したり、免疫システムによる病原体の排除の目印となったりする重要なタンパク質です。 こうした抗体の性質を利用し、治療薬として利用する「抗体医薬」というタイプの医薬品が、現在盛んに開発され、癌や自己免疫疾患、感染症といった疾患に対する治療薬として使用されています。 たとえば腫瘍細胞の表面に結合すると、これを免疫システムが排除してしまうような抗体や、腫瘍細胞に結合することで癌細胞自身が死滅するような信号を送る抗体などが治療薬として承認されています。 抗体医薬は治療効果に優れていることに加え、抗体は元々我々の体が作り出すタンパク質であるため安全性も高く、現在バイオ医薬の主流となっていますが、その一方で、たとえば結合するターゲットも様々なものが一通り開発され尽くし、将来的にターゲットとなる候補が「枯渇」してしまう可能性など、その限界も指摘され始めています。 こうした状況を打開する次世代抗体医薬として、「二重特異性抗体」が注目を集めています。 これは二種類のターゲットを同時に認識する抗体になりますが、たとえば免疫細胞と腫瘍細胞を二重特異性抗体が橋渡しして接近させ、腫瘍細胞を殺傷するような医薬品が実際に開発されつつあります。 しかしながらこれら二重特異性抗体ベースの治療用抗体候補の開発には膨大な労力と時間を要する点が現在の課題となっており、より簡便かつ確実な手法の開発が待たれています。 我々はこれまでに、抗体を試験管内で迅速に作製する独自技術である「ADLibシステム」を開発し、抗体医薬開発プラットフォームとして実用化してきました。 ADLibシステムは従来型の、ターゲット一種を認識する抗体を作製する技術ですが、本研究課題ではこのADLibシステムに抗体遺伝子再編成メカニズムや染色体に関する基礎研究の過程で得られた知見を盛り込み、細胞培養作業や磁気ビーズ選抜といった試験管内の簡単な作業で二重特異性抗体が得られる技術の開発を行っています。 合わせて、得られた二重特異性抗体産生細胞を利用し、二重特異性抗体の標的への結合能力増強までを一連の工程で実現させてしまう技術も開発します。 本技術開発を通し、二重特異性抗体の簡便、迅速な取得と得られた抗体の最適化を実現し、次世代抗体医薬開発の大幅な加速を目指します。

ADLibシステムの原理 図1: ADLibシステムの原理。鳥類由来の免疫細胞であるDT40細胞をTSAという薬剤で処理すると、抗体遺伝子が多様化します。この細胞は細胞表面に抗体を提示していることから、ターゲットを結合した磁気ビーズ(鉄の微粒子)とチューブ中で反応させ、磁石を組み込んだスタンドに立てると目的の細胞を単離することができます。またこの細胞は培地に抗体を分泌していることから、培地から抗体を回収することができます。本細胞は増殖が極めて速く、磁石による選抜から最短約10日程度で抗体を作製することが可能です。
ADLibシステムを実施している最中です。 図2: ADLibシステムを実施している最中です。ターゲットを固定した磁気ビーズと細胞を混合したチューブを、磁石を組み込んだ磁気スタンドに立てているところです。これによりターゲットに結合する抗体を提示する細胞が単離できます。
フローサイトメーターという装置を用い、ADLibシステムで得られた候補抗体を提示する細胞の解析をしているところです。 図3: フローサイトメーターという装置を用い、ADLibシステムで得られた候補抗体を提示する細胞の解析をしているところです。
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