抗体医薬は、今や世界のブロックバスター売上高上位10のうち7を占める医薬品の主役と言える存在になった。近年、核酸医薬や再生医療など新たなモダリティが注目を集めつつあるが、抗体医薬品の優位性は当面続くと考えられる。一方、本分野での我が国の存在感は薄いと言わざるを得ず、この状況を打破し、国際競争力を高めるためには、日本発の独自技術に基づく次世代抗体の開発が喫緊の課題である。そこで、アカデミア、製薬企業の立場で長く抗体創薬に携わり実績を挙げてきた鹿児島大学(伊東)、鳥取大学(香月)、東京薬科大学(富塚)の3つの研究グループ(図1)は、多様性、特異性、生体内安定性等を有する抗体の特徴を活かし、かつ従来の抗体を越える価値を提供する技術として『組織送達抗体+生理活性分子』の組み合わせからなる複合バイオロジクス開発の発案に至った。
本研究課題は、図2に示すように、先のプロジェクトAMED革新的バイオ事業(下記リンク先参照)の成果を受け、鳥取大学が独自に持つ完全ヒト抗体産生(TC)マウス/ラットによるヒト抗体産生技術と鹿児島大学が得意とするファージライブラリ技術を融合させたTC×Phage技術を駆使することで、組織特異的移行性抗体AccumBodyを開発する。さらに、AccumBodyと治療薬剤とを鹿児島大学の持つ部位特異的修飾技術により連結することで、新たなモダリティとなる日本発の高機能バイオロジクス医薬群の創出を行うことを目的とする。
その達成に向け、本プロジェクトでは、以下の5つの項目に沿って開発研究を推進する。1)脳移行性抗体による多発性硬化症治療薬の創出:既に、開発済みの脳移行性抗体(AccumuBrain)に加え、新規の脳移行性抗体をTC×Phage技術によって開発する。これに治療薬剤を連結することで、脳への集積性と再生・修復効果を高めた治療薬の開発を進める。2)腸移行性抗体による炎症性腸疾患治療薬の創出:開発済の抗体に加え、新規の腸移行性抗体を開発する。これに治療薬剤を連結し、腸粘膜再生・修復を主薬効とする治療薬開発を進める。3)筋移行性抗体によるDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)治療薬の創出:筋移行性抗体の取得は、筋組織あるいは筋細胞の免疫によって行う。核酸医薬品を治療薬剤として用い、確立済のDMDモデルマウスを使い開発を進める。4)次世代完全ヒト抗体産生マウスの開発:複合型バイオロジクスの抗原性評価のためのヒト完全免疫系を有する完全ヒト免疫系マウスと、AccumBody開発に貢献できるヒト抗体産生ヌードマウスの開発を目指す。5)次世代部位特異的抗体修飾技術の開発:コンジュゲートに使用している抗体修飾分子の改良技術の開発を行う。
以上を通し、日本発の新規技術による次世代抗体医薬品群の創出を達成し、我が国のこの分野における国際競争力向上に大きく貢献したい。終わりに、本プロジェクトを推進する3つの研究グループのメンバーを図3に紹介する。


