先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業 Science and Technology Platform Program for Advanced Biological Medicine

採択課題

抗体薬物複合体の高機能化を実現する生体高親和性ケミストリーの確立

<研究開発代表者> 細谷 孝充

東京医科歯科大学 生体材料工学研究所

細谷 孝充

 抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate; ADC)とは、抗体に対して抗がん剤などの薬物を化学修飾により導入したバイオ医薬品です。現在多くの製薬企業が研究開発に取り組んでおり、実際に難治性のがん患者の治療薬としても使われています。ADCの抗体部分はがん細胞表面の受容体に対して高い特異性で結合するため、ADCはがん細胞内へと選択的に取り込まれ、その後、低pH環境であるリソソームにて分解される過程で抗がん剤が放出されます。そのため、従来の抗がん剤のみを使用する治療法と比較して、ADCを用いる治療法では薬物を効率よく患部に届けることができ、高い治療効果を示します。この原理によると、抗体に対して、できるだけ多くの抗がん剤を導入することが望ましく思えます。しかし、実際には抗体1分子当たり抗がん剤3〜5分子の導入が最も治療効果が高いと報告されています。この理由としては、抗がん剤などの疎水性が高い化合物を抗体に多量に導入した場合、ADC全体の親水性が低下してしまうことが挙げられます。その結果、患部に到達する薬物の数が減り、治療効果が低下します。すなわち、ADCの薬効をさらに高めるには、抗体の親水性を保持しつつ、多数の抗がん剤を導入する新しい技術が必要です。
 本研究開発では、抗体に対して複数の薬物を連結させるためのプラットフォーム分子に、糖やアミノ酸といった高親水性の骨格を用いることで、ADCの薬効向上に挑みます。我々はこれまで、複数の機能性部位を順次導入できる、マルチクリックケミストリーの研究を進めてきました。これらの知見に基づき、高親水性プラットフォーム分子の開発や、連結技術の高度化を行うことで、親水性を保持しつつ、従来技術では導入困難な量の抗がん剤を抗体へと導入するための基盤技術を確立します。加えて、作製したADCから抗がんを放出するための刺激応答性切断リンカー技術の開発(理研)や、抗がん効果の評価などを行い(信州大)、それらをフィードバックすることで、次世代のADCの合成技術を創出します。本研究の達成により、ADCの投与量の低減が見込まれ、それに伴う費用削減が期待されます。また、利用可能な抗がん剤の種類が拡張されることから、多くの製薬企業のADC研究開発への参入を促します。さらに、多量の化合物を疾患部位へと届ける本技術は、抗体薬物複合体の研究開発を他の疾患へと展開する道を拓くと期待されます。

図1 図1: 本研究開発の目標: マルチクリックケミストリーによる高機能化ADC作製技術の確立
図2 図2: クリック反応: アジドとアルキンが環化付加反応により連結する反応
図3 図3: 当研究室でこれまで開発してきたマルチクリックケミストリー
図4 図4: 研究開発体制
東京医科歯科大学と信州大学、理化学研究所の協力体制により本プロジェクトの達成を目指します

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