運営体制

- 本事業は、文部科学省との連携の下、AMEDにより推進されています。
- プログラムスーパーバイサー(PS)1名とプログラムオフィサー(PO)4名が、事業進捗状況を把握し、円滑な推進に必要な指導・助言を行っています。
- 本事業では先端的基盤技術を開発する研究開発課題が27課題が採択されています。また、別で採択されました1課題(支援班)は、他の27研究課題が適切にマイルストーンを達成し、知的財産を創出し、研究成果を企業へ確実に導出できるよう、きめ細かい支援活動を行ったり、複数の研究課題を連携させることにより新たな価値を生み出す提案をするなど、効果的な研究開発支援スキームの確立を行います。
- 設置された課題評価委員会により、事前評価、中間評価、事後評価が実施されます。
先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業への期待
プログラムスーパーバイザー 宮田 敏男
医薬品の開発は、我が国が目指している知識集約型産業の良い例であり、次世代の成長産業として期待されています。近年の実用化研究を加速する政策の下、低分子医薬品に関しては、アカデミアからでもヒット化合物探索から始まって構造最適化、GMP合成/製剤化、非臨床GLP試験を経て、医師主導治験に至るまで実施することが可能になり、開発実績やノウハウを着実に蓄積できつつ有ります。これに対し、バイオ医薬品はまだまだノウハウや経験の蓄積がありません。一定の品質を保証するためには、培養条件、精製や濃縮など厳密な管理が必要で、大量の製品の同等性を確保することが難しい分野といえます。たとえアカデミアが革新的なシーズの開発に理論的に成功したとしても、実用化までのハードルはまだまだ高い状況にあると言えます。低分子医薬品と異なり、多くの製薬企業にも十分な経験・ノウハウが蓄積できていません。バイオ医薬品は、アカデミア、バイオCRO、製薬企業(バイオベンチャー)それぞれが独立して経験を積んでいる段階で、それら連携や協業はまだまだ不十分です。
日本発の革新的なバイオ医薬品を創出するためには、単に要素技術やシーズ(コンセプト)を発見するだけでなく、複数の要素技術の組み合わせで付加価値や実用化の可能性を高めたり、アカデミア、バイオCRO、製薬企業(バイオベンチャー)間でのオープンイノベーションの「場」を提供して経験やノウハウを繋いだりするなど、多くの課題を抽出して、皆で解決しなければいけません。 そうでなければ、学術的に画期的な成果を出したとしても、生産技術上の課題、知的財産上の課題、薬事法上の課題がネックとなり、バイオ医薬品は生まれません。低分子医薬品の開発とは異なった経験やノウハウが必要です。
日本医療研究開発機構(AMED)では、平成26年度より「革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業」を5年間実施しました。企業導出が目標とされ、必要な支援(知財、契約、非臨床試験、薬事などの助言)を行う体制を事業内で整備し取り組んだ結果、導出認定は40件、特許出願件数61件(PCT出願件数40件)、ベンチャー企業8社立ち上げ、などそれなりの成果を創出できました。
その継続事業として、「先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業」が令和元年度から5年間の予定で開始されています。既に、抗体・ペプチド医薬、核酸医薬、細胞医療、遺伝子治療、ゲノム編集、デリバリーシステムなど、バイオ医薬品に関わる27件の多様な研究開発テーマを採択しました。これらは、いずれも革新的なバイオ医薬品につながるポテンシャルを秘めたシーズや技術基盤であり、これら研究の進展を楽しみにしています。出口・知財・事業・バイオ医薬品開発等に精通した専門家の方々に本事業を支援いただく体制(支援班)も整備しましたので、皆で協力して柔軟な事業運営を行い、当事業を有意義なものとしたいと思います。
日本から先端的バイオ医薬品を発信する
プログラムオフィサー 金田 安史
私の専門分野の遺伝子治療の領域においては、最近は欧米を中心として遺伝子治療製品の承認が相次ぎ、遺伝性疾患や癌に対する特効薬として注目をあびている。しかし遺伝子治療が始まった当初は、成功例はほとんどなく重篤な有害事象が相次ぎ、遺伝子治療は見捨てられた状態であった。しかし地道な基礎研究が実を結んで、2011年以降は多くの遺伝子治療が高い有効性を示すようになった。一方日本では、1995年に北大で遺伝子治療の臨床研究が開始されたが、今年初めてHGF遺伝子が末梢血管病の治療薬として承認された。何故これほど時間がかかったのか?多くの課題が今となっては指摘される。そもそも基礎研究成果を臨床応用するというトランスレーショナルリサーチの何たるか、治療薬としての承認を得るための治験の意義、ベンチャーカンパニーの必要性、特許戦略等々をほとんどの研究者が知らなかった。2007年に文科省が橋渡し拠点事業を始めるようになって次第に認識が深まった。一方最近はアメリカや中国が巨額を投資して、研究を牛耳る感があり、次第に日本の存在感はなくなるのではないか、という危機感に包まれている。しかし本来日本の研究のオリジナリティーは高いので、大きく発展するような研究を拾い上げる目利き力、それを集中的に支援する資金とマンパワー、いち早く上市出来る規制緩和等々を整備すれば、日本からも革新的な医薬品開発はまだまだ可能である。本先端バイオ事業では、次世代の医療を変えるような先端的な技術開発のシーズを厳選し、それを文科省からの資金を投入し、かつ経験豊かな支援班の指導の下で、5年間での企業導出を目指す。POの一員として、よいシーズを選べたと自負している。我が国の製薬企業は、将来を思うなら、日本のシーズにもっと目を向けてそれらを積極的に取り上げて世界を凌駕する気概を見せてほしい。先端バイオの開発品はその期待に十分応えてくれると確信している。
オールジャパン体制下でのバイオ医薬品の継続的創出と企業導出
プログラムオフィサー 大滝 義博
近年,ライフサイエンス領域では、次世代シークエンサ―による全ゲノム解析データの急速な蓄積、iPS細胞やゲノム編集技術を始めとする革新的な研究手法の確立等が続いています。これら技術を利用すれば、従来とは異なる構造やメカニズムの新規医薬品開発が可能となるのではないかと期待され、世界を巻き込んだ熾烈な研究・開発競争が繰り広げられているのです。
これまで日本は基礎的研究の分野では標的となる分子の発見など世界に対して一定の貢献を続けてきました。しかしながら、それを受けての実用化が欧米の製薬企業により成し遂げられる等、開発の面では充分ではなかったと指摘されています。今後、日本発のバイオ医薬品を継続的に市場に提供していくためには、創薬シーズの発見に加え、発見したシーズを製品化し、迅速に市場に投入するための仕組みづくりも大切となります。すなわち、システマティックなエビデンスの蓄積と共に、開発スケジュールの達成に向けたプロジェクトマネージメントや知財戦略も要求されます。
本事業では出口を『5年以内に研究開発成果を企業に導出し、迅速に製品化に繋げる』ことに置いています。それ故、本事業では従来のアカデミアでは充分ではなかった『基礎研究からバイオ医薬品の製品化に至るまでの各段階を切れ目なく支援する強力なバイオ医薬品開発支援体制』を構築し、研究者はこれら支援チーム・メンバーと連携しつつ、オールジャパン体制下でのバイオ医薬品の継続的創出・企業への導出を目指すこととなります。
また、企業導出に当たっては導出認定会議を開催し明確なルールの下、各案件ごとに導出認定を行うこととしています。
日本医療研究開発機構では、医薬品開発に関わる各種事業が併行して実施されます。これら他の事業とも有機的な連携を図り、世界に発信できるバイオ医薬品の開発を目指せればと考えています。
「先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業」への期待
プログラムオフィサー 堀内 正
日本医療研究開発機構(AMED)が2014年(平成26年)に立ち上げたオールジャパンの「革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発」事業(革新バイオ)は、革新的バイオ医薬品創出のための基盤技術を研究開発し、5年以内に企業等への技術導出を目指すものでありました。この事業は、5年間の研究代表者の多大な努力とPS・PO、知財担当等の支援より「導出認定が40件」等の大変大きな成果を創出する事が出来、多方面より高い評価を受けました。2019年より始まった「革新バイオ」の後継事業である「先端的バイオ創薬等基盤技術開発」事業(先端バイオ)も前事業と同様に企業導出が大きな目標であります。私は、現在は慶應義塾大学病院の臨床研究推進センターでトランスレーショナル・リサーチの業務に従事しておりますが、大学に移る前は製薬企業で長年研究開発に携わっており、医薬品や診断薬開発の企業の研究開発担当者との交流も深く製薬企業内外での人脈が豊富です。「先端バイオ」事業の5年間で得られた成果を、豊富な人脈を通じて積極的に技術導出して行きたいと考えております。最後になりましたが、本事業で世界に誇れるバイオ医薬品の創出を大いに祈念しておりますので、皆様のご指導ご鞭撻を宜しくお願い申し上げます。
「大胆な戦略」と「精緻な戦術」を併せ持つことが今まさに必要
プログラムオフィサー 津本 浩平
四半世紀前,抗体の蛋白質工学研究を本格的に開始した時に,まさか今のような時代が訪れるとは思いもしませんでした。本邦でも多くの研究者が要素技術の先鋭化を図り,成功を収めてきましたが,医薬品開発となると,そのような要素技術をいかに組み合わせるかが大きなカギになり,一研究グループどころか,一企業だけでも研究開発できないような状況となってきています。「大胆な戦略」と「精緻な戦術」を併せ持つことが今まさに必要,といってよいかと存じます。
最近5年間を見ても,抗体医薬品が次世代品も含め100に到達しようとしていますし,核酸医薬がいよいよ本格化してきているほか,CART療法を始めとする細胞療法,さらには遺伝子治療への期待が高まってきています。これらの研究開発においても,先鋭化された要素技術はもとより,医薬品開発という目標達成に向けた融合研究が必須となります。そのためには,戦略と戦術を合わせて磨き上げることが必須となります。
革新的バイオ医薬品事業では,「導出」という新しい評価基準を設けることにより,このような要請に応えてきた,と感じています。例えば,基礎研究で著名な研究者が,その国際的評価を維持・向上させつつ,「導出」や「起業」においても高く評価される実績を挙げておられます。
今回の先端的バイオ医薬事業では,前事業での優れた成果に基づく融合研究はもとより,次世代バイオ医薬品開発に資する強力な技術開発,さらには,創薬モダリティとしてその発展が大きく期待されている遺伝子治療,細胞療法に関する基盤技術開発が大きな柱になっています。
国際的に遅れを取った,との内外の評価であったバイオ医薬品開発研究も,本邦が得意とする「精緻な戦術」に基づく成果等,確実に実績を挙げる状況にあります。小職自身も,本事業の強力な推進を中心に,「大胆な戦略」への貢献に微力ですが全力を注ぐ所存でございます。御指導,御鞭撻賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。